[日文版]台湾「反服貿運動」に関する労働人権協会の基本見解

AWC-17th CCB, 2014.5.3, Seoul

3月18日、台湾で学生たちが主導する立法院(国会)占領行動が発生し、3月23日には最高行政機関である行政院まで占領した。今回の行動は昨年6月、両岸間(台湾と中国大陸)で締結したサービス貿易協定が台湾立法院で承認を受ける過程において、国会小委員会で手順を踏んだ民主主義を守っていないことに対する抗議から始まった。
4月10日まで行われた今回の占領行動で、学生指導部は、前半期には立法院での内部審議過程での手続き上の民主主義を要求し、後半期には全体的な通商交渉手続きに対する民主的統制を要求して「両岸協定締結に関する監督条例」の立法院請願案を提出した。デモを支持する大衆の中では「両岸サービス貿易協議」への反対の声は高かったが、学生指導部は初めから最後まで、手続き民主主義要求だけを堅持してきた。
そして学生指導部が提出した「両岸協定締結に関する監督条例」立法院請願案は、協約締結の手続き民主主義を実現するためにというよりは、重点を二種類の事柄に置いている。一つは、台湾と中国大陸の国名は明確に中華民国と中華人民共和国として、条文で明文化させるということである。これは現在の両岸問題を、一つの中国原則の下、故意にあいまいに台湾と大陸間の関係を規定し、両岸の平和と交流を維持してきた状況を全面的に否定するものであり、台湾独立宣言に準ずる条項だ。 
この条項が通過すれば両岸交流が全面中断されるだけでなく戦争危機状況まで到来することは明らかだ。他の一つは、協約締結代表団が主権に不正な影響を及ぼす協約を締結する場合、すべての関連者を7年以上の有期懲役に処することができるという条項が入っていることである。韓国式表現で言えば、学生たちが要求しているのは国家保安法上の「利敵行為」処罰に関する条項を法制化しようということだ。
今回締結した両岸サービス貿易協議は、2010年に締結した「両岸経済協力の枠組み協議」(Economic Cooperation Framework Agreement 略称ECFA)の後継協議として、昨年6月から国会で審議に入ったが、社会の注目をあびることができない状態が続いていたところへ、今年3月15日アメリカの保守派シンクタンク であるヘリテージ財団(heritage foundation)の台湾専門家ジョン・タシク(John Tkacik Jr)が台湾を訪問し、ある講演会で「現 馬英九政府は親中国政策を展開しており、アメリカの『アジアへの帰還政策』に積極的・能動的に協力しなかった」と強烈に批判した。また「アジア太平洋地域の有事の際、アメリカは優勢な海軍、空軍兵力によって介入する予定だが、友邦である日本は地上部隊を動員して協力する予定であり、台湾もこれに対し協力しなければならないにも関わらず、日本とフィリピンが国防予算を増やして海軍兵力の向上を図っているのに反して、残念ながら台湾は努力が不足している」と指摘した。そしてジョン・タシクは両岸サービス貿易協議について、「台湾が中国に吸収統一される完ぺきな協議」と評価した。次の日、台湾独立派の日刊紙で大々的に報道され、二日後の3月18日に占領行動が開始された。
今回の占領行動の学生指導部の立場は、親米反中であることは間違いない。今回の占領行動が終ってもいないうちに、二人の学生代表がアメリカの議会の招請を受けて講演をしにアメリカを訪問している事実も、これを如実に示している。
なぜデモの支持者には両岸サービス貿易に反対する人が大多数を占めているのにも関わらず、指導部では終始一貫して手続き民主主義の問題だけに固守しているのか? これは今回の行動の指導部の中核が、皆、野党である民進党と深い関連があるためだ。民進党の立場は反中国的ではあるが、両岸サービス貿易締結に反対することができず、手続き上の問題だけをもって、ある程度是非を争った後に通過させようとした。それで学生指導部も「両岸サービス貿易協議」反対を直接掲げないと同時に、最大限、反中国感情をそそのかす戦術をとったのだ。そしてこれら学生は民進党内の「蔡英文」派の所属なので、今回のデモで蔡英文の支持勢力が大きく上昇して、本来激しい三つ巴戦になると予想されていた民進党総裁選挙で他の二人の候補が両方とも選挙を途中放棄した。これにより蔡英文は、2016年大統領選挙の民進党候補に選出される可能性がより高まった。
今回の占領行動には多数の国民が呼応したことは事実だ。その原因は、第一に、反共反中勢力の総結集にある。第二に、馬英九総統と同じ党の所属である国会議長の王金平との間の必死の権力闘争によって、国会議長が学生たちを支持し、学生を自身の権力闘争の道具として使ったことにある。第三に、馬英九の執権6年の間に、実質賃金が持続的に下落するなど青年たちの不満が両岸サービス貿易反対闘争で爆発したことにある。たとえこれが反共主義宣伝によって歪曲された認識から始まったものだとしても、私たちはこのような青年たちの不満を重要視している。青年たちの現実に対する不満は台湾社会を進歩的な方向に導いて行くことができる力になりうるからだ。
両岸は内戦と冷戦によって分断が固定化され、数十年の間、経済往来を含んだすべての往来が中断されていた歴史がある。そして1986年から戒厳・反共体制の下で数万人の離散家族がすべての処罰を甘受して中国大陸に渡って家族対面に成功した。そして経済交流がその後に続いた。40年近く両岸関係は激しく対立してきたが、離散家族と経済交流によって徐々に緩和されはじめたのだ。よって私たちは両岸サービス貿易協議も、両岸の平和と東アジアの平和の視角から見つめる必要があると考える。
両岸間の経済協力の枠組み協議(ECFA)において、中国大陸は台湾との特殊な関係を考慮して超デリケートな項目を最大限尊重した。例えば農水産物の開放を要求しなかった。それだけでなく経済協力の枠組み協議(ECFA)において、台湾が2002年にWTOに加入してすべての会員国を対象に多くの商品品目を開放したのだが、中国農産品874個の品目を一方的に禁止した。中国大陸政府がWTOに提訴を申請すれば、台湾はすぐに開放しなければならないのに中国大陸はこれを提訴しなかった。それだけでなく中国大陸は、台湾の野菜、果物のような農水産物が過剰生産されて価格が暴落した時、過剰生産物の買入れを通じて農民の被害を防いでくれた。また「両岸サービス貿易協議」で、中国の強い業種である漢方医療、通訳、中華料理人、労働力の移動などの開放を要求しなかった。その他にも、韓米FTAで指摘されたような有害条項は一つもなかった。例えばISD(国家対投資家間の紛争解決)条項がない。国内法を改正しなければならない部分も一つもなかった。そして155の細部項目に分けられるサービス貿易のうち、台湾はすでに114の項目をWTOサービス貿易総協定(GATS)に加入した会員国に開放しているが、今回中国大陸に開放した64個の項目は全部すでに先進国に開放した項目であるから台湾のサービス産業に対する衝撃は微々たるものだと言える。
それにもかかわらず、青年学生をはじめとする多くの大衆が両岸サービス貿易協議に反対しているが、彼らが掲げている主な根拠は4つに要約できる。
第一に、中国は敵国なので、中国業者が入ってくれば国家機密が漏れる可能性がある。実際は、中国大陸に開放した64の項目はすでに全て先進国に開放した項目だ。そして彼らが主にしている話があるのだが、それは中国の美容業者が入ってくれば店舗の四方に五星紅旗がひるがえることになるだろうし、お客さんの髪を洗うのと同時に洗脳も一緒にしてしまうという話だ。このような話を通じて台湾社会全体が共産主義は怖いという雰囲気に包まれた。
第二に、中国大陸業者が入ってくれば中国の安価な労働者も一緒に入ってくることになり、台湾労働者は働き口を失うことになるだろう。実際には「両岸サービス貿易協議」では労働力の受け入れは議論しなかったのに、このようなうわさが出回り続けた。
第三に、不平等だ。彼らが掲げた根拠としては、中国は独裁国家であるから台湾企業が中国に行って民主的な待遇を受けることはできない。
第四に、台湾国内のサービス業種に対する衝撃が大きい。これもまたほとんどが誇張されたものだ。例えばかれらは、中国大陸は私たちと言語が同じで文化が似ているのでとても恐ろしいという。私たちは、イケア、マクドナルド、 スターバックスなどの多国籍企業は恐れないけれど、中国はとても恐ろしい。
以上から見ることができるように、これ以上説明しなくとも、今回の占領行動を契機にして、今後台湾の極右・対中国強硬派が台頭する可能性が非常に大きいということが分かるだろう。
台湾の青年労働者の状況
現在の台湾の大学生の72%が学資金ローンを組んでいる。私立大学の場合、授業料が一学期当たり1600ドルから2400ドルの水準で、韓国と日本に比べては低い方だが、大卒の初任給と相対的に比較すると世界最高水準だという。大卒の平均初任級が月800ドルにしか過ぎないので、卒業時までに抱えるローンの総額が就職一年目の年俸の121%に達する。多くの大学生がアルバイトをしているが、最低賃金は時給109ウォン(約3.6ドル)で、月給にして19047元(約630ドル)に過ぎない。そして台北市の住居価格が高騰しつづけているので、平均収入との対比での住居価格も世界最高だ。平均15年の間、食うや食わずで、ようやく家を買うことができる。大卒の失業率は、平均4%台の全体失業率の3倍もなる約13%だ。
労働者の老後の生活を保障する「労働者年金保険」基金が2027年に破産するだろうと政府が昨年に発表した。これに伴い、現在の賃金の7%(使用者、労働者、政府がそれぞれ7:2:1割合で出している)の年金保険料が、20年以内に20%程度まで引き上げられねばならず、年金受領額は加入30年を基準に、現在の46.5%から下方修正しなければならないという。保険料の急激な引き上げは青年の負担を加重させる。
青年たちのこのような不満は、まさに今回の占領行動と占領行動に対する支持として表出したものだ。このような青年たちの行動は、実は「両岸サービス貿易協議」に対する具体的な反対であるというよりは、政府に対する抗議行動だから参加することになったものだと説明するのがより妥当であろう。
そして最後に、最近の私たちの反米活動についての紹介をして、2014 労働人権協会の報告を終えようと思います。最近アメリカ のオバマ大統領が日本を国賓として訪問している間に、読売新聞の単独インタビューに答えている。このインタビューで、釣魚台諸島が「日本によって管理されているので、米日安全保障条約第5条の適用対象に該当する」と確言したことや、「(日本)の集団自衛権行使にともなう制約事項を再検討することを含めて、日本の防衛力を強化して米軍との協力を深化しようとする安倍総理の努力に賛辞を送る」等の発言をしたことに対して、私たちはアメリカの在台湾代表機構である「米国在台湾協会」(AIT)に行って抗議デモを展開し、アメリカの戦争策動反対、日本の軍国主義復活に反対しました。